これからの地方の足を考える 出雲の一畑電車

「地方の足」調査の第一弾は、出雲の一畑電車と、以前自動運転バスを試行した鳥取砂丘です。

当社では自動車の将来像探訪の一環として、自動運転バスに関しても調査・レポートしています。
特に、実際の現地に赴いての調査・乗車といった「現地現物」を心がけ、肌感ある所感とともにコメントしています。

自動運転バス 茨城県境町&気仙沼BRT他
自動運転モビリティ 福井県永平寺町 ZenDrive

これまでの実体験からして、自動運転バスがそのまま地方の足として置き換えられる気はしません。
初期投資と運用経費の両面で、少なくともこれまで調査してきたシステムでは導入が困難でしょう。

さて、地方の実情を調べるために、映画でも話題となった出雲の一畑電車と、以前自動運転バスを試行した鳥取砂丘の調査に行きました。
今回のレポートは、一畑電車、通称ばたでん についてです

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出雲大社前駅

この最寄り駅が「ばたでん」の出雲大社前です。

写真は、出雲大社前駅での折り返し発車前の列車です。

出雲大社の南方にある、一の鳥居と二の鳥居のおおよそ中間に位置します。
一の鳥居は、ちょうど鳥居前の橋の架け替え工事中でした。鳥居の真ん中に見える道が出雲大社に通じる参道です。

一の鳥居
二の鳥居

一の鳥居のさらに南方数百メートルには、1990年に廃止になったJRの大社線の終点の大社駅がありました。
この駅舎は重要文化財となっていますが、あいにくと全面改修中で写真のように、すっぽりと覆われていました。
国鉄時代1960年頃までは、東京からの直通急行「出雲」があったということで、駅としても由緒あるものだったようです。

全面修復中(中央の仮建屋内部)の旧大社駅

RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語

一畑電車が舞台となった映画です。出雲大社前駅の構内には撮影のために復活(お座敷列車に改造してあった車両を本来のロングシートに戻す)した車両が展示してあります。

写真はその車両と車内からの風景、および車両内に掲載してあった映画の解説パネルです。

映画としても、中井貴一主演、高島礼子・本仮屋ユイカ・橋爪功・佐野史郎・宮崎美子など、そうそうたるキャストで、面白かったという印象を持っています。入院中の母親が病室から、中井貴一運転の列車を見るというシーンがありましたが、実際は、沿線の高校を病室に見立てての撮影だったとのこと。

地方の足 営業状況

地方の鉄道としては当然ながらの慢性赤字状態でした。一部の路線廃止や補助金無しでは運営継続が難しいなど、ごくごく一般的なローカル私鉄でした。2006年に経営責任の明確化と補助金の透明化をはかり、一畑電気鉄道から分社化して同社の100%子会社の一畑電車としました。以降、営業係数150程度と依然として赤字ながらも悪化はさけられており、島根県と沿線自治体の補助で安定的に運営できています。年間輸送人員は、140万人程度ですが、コロナ前まではごくわずかではありますが増加傾向でした。

写真は、松江しんじ湖温泉駅掲示の路線図と時刻表です。

電鉄出雲から松江しんじ湖温泉までの北松江線とその途中駅の川跡から出雲大社までの大社線の2路線、総延長約42kmです。

時間当たり1本と、ごく一般的なローカル線ですが、朝夕もほとんど本数が変わりません。一方で、休日日中は松江しんじ湖温泉と出雲大社間で直通運転(時刻の上に★印付き)となります。このことがこの鉄道のユニークな特徴を表しています。すなわち、通勤通学にはそれほど利用されておらず、観光目的が主体的であるということです。平日朝8時過ぎに松江しんじ湖温泉発着の列車を見てましたが、乗車率10%程度のようです。

路線の両端が著名な観光地であるという地の利が生きた路線です。コロナ禍以降も観光需要は継続することを考えると、経営的には現状継続が可能と推察されます。

乗車してみて

平日の昼過ぎ、出雲大社前から川跡で乗り継ぎ、松江しんじ湖温泉まで、約37km 820円 一時間の乗車でした。川跡までも、それ以降も、大半が観光客という雰囲気でした。座席に対する乗車率は、走行区間によって変動しますが30-70%程度と、結構な乗客数のようです。

保線状態がそれほど良くない線路を最高時速85kmで走行するために、かなりの揺れがあります。2両編成の連結部を見ていますと、今にも外れるのではないかと思うほどです。

乗り継ぎの車両は、木目調の内装で、折り畳み式のテーブルもあるといった観光向け車両でした。

乗車した2編成を含めて10編成程度観察しましたが、いずれも新しめの車両でした。

自動運転バスへの置き換え検討

仮に、自動運転バスに置き換えることを考えてみましょう。なお検討を簡単にするために、2路線のうちの主要観光路線の松江しんじ湖温泉-出雲大社間のみの37km 1路線で検討します。

単線鉄道の長距離バス置換としてはJR東日本の気仙沼BRTがあります。先にレポートしたように、この一駅区間では昨年12月から定期ダイヤでの自動運転が開始されています。

JR東日本の気仙沼BRTと同様な置き換えが可能でしょう。その際の課題は、バス専用道とするとともに、十分な侵入防止が必要です。また、単線ですので、上下退避線が必要です。北松江線の数か所の駅では上下交換が可能となってますので、同様に設置することで対応可能です。

課題は、運行ダイヤとバスの台数です。現在2両編成の運行が可能で、立ち席乗車を考えるとその輸送人員は200人をはるかに超えると推定されました。観光のピーク時はこの人員の輸送が必要です。現在1時間に一本を60人定員のバスの場合は、時間3本とする必要があります。また、気仙沼BRTの最高速度は60kmであり、この速度は世界的に見ても自動運転としては最高速レベルです。現在の鉄道の最高速度は85kmですので、所要時間が約1.5倍となるという課題もあります。

片道90分、20分ピッチ、往復での同時走行台数は9車両となります。現状での自動運転遠隔監視は4車両程度までの監視ですので、監視員が3名程度必要となります。主要な駅(停留所)の5か所程度には安全確認兼乗客対応の人員も必要です。

完全無人運転が可能となった際は、10名程度以下での対応が可能です。一方、安全監視員を乗車される場合は、さらに10名程度の人員が必要となります。

気仙沼線(および大船渡線)の津波被災鉄路のBRT復旧に300億円を要しました。総延長約115kmですので、1km当たり約3億円です。自動運転化のためには、走行位置確認マーカの埋め込みや走行位置確認管理や遠隔モニター対応等の地上設備が必要で仮に1km当たり、1億円と推定します。総延長37kmの自動運転対応バス専用道化のために約150億円が必要です。自動運転バスは、予備も含めて15から20両必要です。一台1億円として約20億円です。

初期投資で170億円、一方で、現在の推定収入が年間10億円、行政補助金推定5億円で収支トントンを考えると、初期投資だけでもかなりハードルが高いこととなります。

現状、年間5億円の赤字ながらも、行政補助金を含めて安定運行できている状況を考えると一畑電車の自動運転バス転換は必要性皆無のようです。

個別のコンサルティングサービスでは更なる詳細や今後の方向性などを解説いたします。
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